練習問題-26



『頼山陽書翰集』徳富猪一郎.木崎愛吉.光吉元次郎編

練習問題一連の書翰の中、皺々していて読みにくそうだからと避けていた分がありました。
硯の話題です。


   
今回詰ったのはこの辺りです。左から順に、「御座候(出居候)」、「御籍藝分」、「辱重」、「寒士なれはさそ(こそ)」。
「御座候(出居候)」は、どうも「御座候」に見えず、「出居候」を候補に上げました。どちらも間違っているかもしれません。
「御籍藝分」、これは苦し紛れの「籍」字です。草冠に詩、と見えます。

さて合っているでしょうか。


答案427字中、誤字16字(3.74%)でした。今回の手跡でこの誤読率は赤點です。
なにか集中し切れず、淺く見る斗りにて、果して斯くの如しです。

    
「取帰候」、実践問題-12に疑問を呈した言い回しにて、これで良さそうです。
「盖囊」というのは、硯の蓋・袋のことです。盖と蓋とは屡通用。
「傾槖候」、たしかに字形は「槖」です。「囊」字の草体変換を誤ったのかと思いましたが、答を見たあとそんな筈はないと思い直し調べてみると、説文に小さくて底のあるものを「槖」、大きくて底の無いものを「囊」と。そこで、なぜ前出の字と使い分けたのか、おそらく前出は硯の袋ゆえに単に「囊」として、こゝの財布のような袋には「槖」を用い、たとえば、明の孫継皐の『宗伯集』にこの詞あり、「公倒囷傾槖為置後」「其産倒廩傾槖佐公行其徳」というような故事を引くものかと思われます。
「御舊蔵の分」、参りました、「蔵之」を「藝」と読んでは大失敗です。「舊」はかなりの僻字ですね、初見で読めなかったとしても致し方ないでしょう。しかし、そこから「質」「劣」と誤読を重ね、これでは何のことを言っているのやら汲み取れる筈もなく散々です。
「厚重」、「厚」字はなるほど、氣付くべきでした。「重」とくれば「厚」は範疇にすべきです。
「本色」、「本」字は読み筋なるも「出」字を選み失着。


「寒生」、と本にあるも、これは見たまゝ「寒士」が正し。
それと本冒頭の「端」字ヌケ、「端砥石」とすべきところ。


「不可驟得者也」、「驟(にはか)に得べからざるものなり」。斯ういった表現を通俗文に放り込む辺り、山陽翁ならではと思います。