練習問題-10

実践問題1~4を書き終えたところ、なにか物足りないと感じました。
読めない字、誤って読んだ字、それらの正しい答を得られなければ、進歩は僅かなものだと思うのです。
そこで頼山陽書翰です。
やはり苦手なものに取り組んでこそ進歩の度も増すかと。



『頼山陽書翰集』徳富猪一郎.木崎愛吉.光吉元次郎編

料紙の市松柄、虫喰、やゝ鮮明を欠く、この書翰は読むに梃子摺りそうだと思っていました。

然るに読んでみると、部分的に読みにくいと感じますが、ほかは意外に読みやすかったです(合っているかは別として)。
読み始めてから画像を作り終るまで、およそ一時間半ほどかゝったでしょうか。
志の低いことながら、読んだ手応えから良ければ誤読二十字以内に収まるかもしれないと期待しています。

とりあえず二度巡読して画像を完成させましたが、まだ数字考えを保留しているので、一旦休憩、後ほど文面を意識してもう一巡して記事を書き終えようと思います。


采葑采菲<詩経>、三年艾<孟子>、名村多吉郎(阿蘭陀通詞)、亀井昭陽、古賀穀堂。

福山志料 三十五巻 藩公の命に依りて編纂したもの、文化六年脱稿。明治四十三年出版。<『菅茶山先生』浜野知三郎著>

一巡を終え、どうも怪しいという字には赤丸をつけました。
良い加減に切り上げ、あとは答を確かめるために時を費やします。


  
「拜讀」画像を「拜被」と見誤り痛恨と思いきや、明らかに「拜被」が正しいです。
「恭喜」画像、「喜」字は「賀」の変形と同形、しかしこゝは「喜」と読むべきところ、掠れに惑わされました。
「牛蓄」、「牛」字虫傷にて仕方なし、表記「牛畜」正し。
次の「最初に被置候」画像も同様。虫の所為にしてはいけませんが、私の技倆にて瑕字を読むのは無茶というもの。

  
「勌観」画像、「勌」字は見たまゝでした、手書入力するも出ず、存在しない字かと思い「勃」にしてしまい失着。
「妙と存候」画像、答では「奉」字が抜けてます。
「治下等の論」画像、「論」思い出せず、典型的な字形です。
「盡心殫思」、「殫」字見たまゝ調べるべきでした。
「孤行にも見受」、私は「弧門」と読みなんのことやらと思えば成程「行」字。
「しくはなくと」、「く」字尚々のとき読んだものを迂闊にも。

   
「其精微」画像、「微」字しらべてみると「術」とは逆入でしたね。
「との事に候」画像、私は「との事也」と見ました。同様の字形は多く、これまでにもしばしば悩まされた「に候」と「也」との差。
「渠意色」画像、「色」字誤認、そうでなければ意通ぜず。
「今度も何角」、「度」瑕字につき誤まり。

  
「不堪健羨」画像、はじめて見る表現です。
「添書の趣」、しくじりました。
「本藩の御手物」画像、これ正しくは「本藩の御手柄」ですね。
「候を蒲刈」、うっかり「越藩」と見ていました。
「實否蹔置」画像、「暫」字では形が合わぬとて空けたのです、僻字には歯が立ちません。
「先生詩に」、「時事」との釣り合いから「紛」に書き換え。
「作御忌避」、これもまた同様にて歎息。

  
「直すと申説」画像、ご尤も、「直」字は有力でした、しかし「直ス」とこゝで片仮名を持ってきますか、参りました。
「落莫と見へ」画像、「莫」瑕字。
「才藻富贍」画像、半ば見た侭、半ば未知、はじめて見る語です、文才に富むという意。
「昭代麟鳳」、前段末にも出た「昭代」と同じ。

   
尚々部、「近稿三四巻」画像、まさかの「巻」、どう見ても「首」です、「御面倒に被思召候はゝ」と言うぐらいですから三四巻もの分量を乞正とはちょっと考え難いです。
「為賜巳多」画像、言われてみれば見えなくもない、答の「巳」字は「已」字か。
「遵海豫遊の對に」画像、「豫」字そう見えたのです、しかし捨てゝしまい、「對」字は見たまゝ意不通。
「負喧」画像、「負」字の方を誤り。「別物」、この辺りは文脈を掴めず、右往左往しておりました、判読にも大きく響いています。

   
「二事聯合」、そうです見たまゝ、捻らなくても良かったのです。
「古道具みせ」画像、ひら仮名なのか漢字なのか途方に暮れます。
「不堪」、先ほども「不堪」を誤っておりました。「是にても詩と可申哉」、そう言われてみるとたしかに。
「詩を作り申度」画像、「作」字はほゞ見えなかったので仕方ないでしょう。
次の「詩與文」画像の「文」字も瑕字。
「不復精思」画像、こゝで「復」字を行體に書かれると反って悩みます。

結局五十字ほども誤読を積み重ね、当初の期待も空しく惨敗でした。試験ならば、言うまでもなく落第です。
鮮明を欠く写真、虫によって読みにくい字、または殆ど見えない字、これらの条件を考慮し(誤読に)数えないとしても、誤読二十字以内が合格といった感觸でしょうか。

たとえば私の答案、前段369字、後段439字、尚々210字、合計1018字中、誤読50字前後(精確に数えられず)あり、約5%の誤読です。
仮に、誤読二十字以内(2%)に収められゝば、98%の精度となり、合格と言えそうです。
凡人の合格線をこの辺に引くとすれば、少しでも記憶力に秀でた者ならば99.5%位に合格線を引くべきかと思います。

それにしても、文字を判別するとき、俎上にのった字の候補たちを取捨選択する過程はおもしろいです。
半端な知識ゆえに迷ったとき、どれだけ文脉を理解できているかを試されます。
加えて、俎上にさえのらなかった未知の字があるという感覚、愉快です。好奇心というものでしょうか。

解説によれば、編者の方は当時珍しい原寸大(長三尺)の写真に接したそうです。

解説


「函丈」画像、『礼記』の「席間函丈」に由来する、あまり使われない脇付です。